
近年、管理職の負担は増加し、またその負担増ゆえに「管理職になりたくない」人も増え、管理職育成がうまくいかない、ということが話題になるようになりました。
こうした話題においては「今の管理職は、何が辛いのか」にフォーカスされがちです。
しかしながら、その「辛い事象」に何とか対処したとしても、前向きに管理職ができるか、また管理職をやりたい人が増えるかというと、必ずしもそうではないと私は思います。
この記事では、「どんなときに、人は“管理職やってもいいかも”と思えるのか」ということを考えていきたいと思います。
1.管理職の魅力
「どんなときに、人は“管理職をやってもいいかも”と思えるのか?」ということを考えた時に、まず思いつくのは、「管理職の仕事に魅力を感じたとき」ではないでしょうか。
管理職の魅力、としてよく取りあげられるのは、以下の内容です。
・責任範囲が広がり、より大きな決断ができるようになる
・現場の仕事とは違う面白さがある
・より成長を感じられる
・自分のやりたいことを実現しやすい
・部下育成の楽しさを知ることができる
ただ、これらは「管理職になってから」実感する方も多いようです。
ある調査では、「元々管理職になりたくなかったが、管理職に昇進して、気持ちがポジティブに変化した」という人が半数以上だった、という結果が出てきます。
([調査レポート] 管理職意向の変化に関する実態調査 より)
こうした調査結果から見ても、やはり「管理職になってから、管理職の仕事の魅力を感じた」という人が多いことがうかがえます。
皆様もきっと実感していると思うのですが、「管理職になる前に」管理職の仕事の面白さや魅力でもって気持ちを動かすのは、とても難しいのです。
2.「孤独になりたくない」社員
そもそも、管理職になりたくない、という気持ちの裏側には、どんな思いがあるのでしょうか。
私がコーチとして、管理職一歩手前の方、いわゆる「リーダークラス」の方とお話していて感じるのは、その多くの方に、根強い「孤独になりたくない」という思いがあるということです。
また、管理職になりたての方からも、よく「自分は孤立しているのではないか」という不安をお聞きします。
人の心は「人とのつながり」を感じられるかどうかによって、大きく状態が変わります。
例えば近年、産後うつがホルモンの影響であること、また「人とのつながり」を感じることによって不安感が緩和されることが広く知られるようになってきました。「人とつながっていたい」「孤立したくない」というのは、人間の身体に組み込まれた根源的な欲求の一つなのです。
管理職になることで孤立するのではないか。孤独になるのではないか。
もし管理職候補者がそう感じているなら、その人にとって、管理職になることは、自分を傷つけることと同じです。
管理職になるために、積極的な行動を起こそう、とは思いにくいでしょう。
3.人とのつながりを感じられる環境か
管理職になりたくないのは「孤立したくない・孤独になりたくない」から。
そう考えると、管理職育成において考慮すべき重要な視点が、ひとつ見えてきます。
それは、
「今の職場は、人とのつながりを感じられる環境か?」
ということです。
人とのつながりを感じられる環境があり、「自分の役割が変わっても、周囲の人が助けてくれる」と思うことができれば、管理職であれ、他の役割であれ、安心して変化を受け入れることができます。
つまりは、
「人とのつながりを感じられる職場は、どうやったらできるのか?」
ということこそ、管理職になりたい、と感じる人材を増やすために、まず考える必要があることなのではないでしょうか。
おわりに
管理職育成というと「管理職を務めるにあたって、伸ばすべき能力は何か?」といった、個人の能力にフォーカスした育成や、「管理職の負担を減らすために、どういったシステムが必要か?」といった、業務にフォーカスした環境改善を思い描きがちです。
また、「管理職であるからには、自律的に学び、成長すべき」とお考えの方もいらっしゃるでしょう。
これらは、決して間違っているというわけではありません。
ただ、こうした能力や業務環境、成長意欲といった部分以前に、「人とのつながりを感じられているか」という、人間として基本的な部分が満たされているかという点も、私たちは忘れてはいけない、と思います。
なお、こうした部分のケアは、現場を見ているその組織の上司ができるのが一番よいと思いますが、上司も忙しい、などの事情のある会社もあると思います。
そうした場合は外部の支援を受ける道もあります。
トラストコーチングでご提供しているトラストボーディングもその一つです。
他にも色々なサービスがありますので、自社内での対応が難しいとお考えの場合は、検討してみるのもよいと思います。
人とのつながりを感じられており、心の状態が良ければ、自律的に頑張れる人、成長できる人は、実はとても多いです。
管理職育成においてこそ、その「頑張れる環境」を整えてあげることこそが、人事として必要なことなのではないか、と私は思います。